◇環境省のガイドラインに則る除染方法
除染事業は「放射性物質汚染対策対処特措法」に基づいて環境省が作成した「除染のガイドライン」に則って行われます。環境省が直轄で実施する「除染特別地域」と、市町村が行う「汚染状況重点調査地域」とは放射線量の違いがあるので除染工事の仕様は異なり、また、市町村においても各自治体ごとに除染実施計画を策定しますので、その地域の事情によって仕様は異なります。どちらにしても、「除染のガイドライン」を踏襲していることは同じです。
◇森林の除染
森林の除染は、主に林床に積もった堆積物を除去するというものです。ただ、福島県は膨大な面積の森林がありますので、すべてを除染することは不可能で、主として居住域の林縁から20mの範囲までの除染となります。
福島第一原発から放射性物質が拡散されたのが3月でしたから、落葉樹についてはほとんど落葉し、新葉はまだ出ていない状況なので、林床の堆積物にセシウムが集積していて、それを除去するのが効率的といえます。作業としては、熊手などで堆積物をかきだし、フレコンバックという1㎥の容量の袋に詰めて仮置き場へと搬送します。竹などの細い木や雑草を刈ったりする作業も必要で、刈払機などを使って行います。
スギやヒノキといった常緑針葉樹については、枝葉部分にセシウムが付着している可能性が高いので、樹木の生育の妨げにならない程度の高さまで枝打ちを行います。枝打ちについては、放射線量の比較的低い「汚染状況重点調査地域」ではあまり行われませんでした。
◇農地の除染
農地の除染は表土を剥ぐと、養分が豊富な部分が失われてしまい、農地として使えなくなる可能性があります。放射能の濃度が高い農地(5000ベクレル/kg以上の汚染度)では表土の張替も行いますが、ほとんどの農地は反転耕によって表面のセシウムを下にもぐらせるという手法を取りました。作土層が15㎝程度であれば、30㎝の深耕によって、表面から15㎝に分布していたセシウムが30㎝の範囲に希釈されるため作土層の放射能濃度が低減する効果があります。
福島県は有機農業の盛んなところでした。農地の除染はすべての放射性物質を除去することは不可能であり、有機農業にとってはその再生は容易なことではありません。たとえセシウムの入っていない土を入れるにしても、有機農業ができる土を作るのには、これからまた多くの年月を要することになります。
◇宅地の除染
宅地の除染については、「除染特別地域」では、庭土の表土の張替え、屋根の洗浄、壁や雨どいのふき取り、側溝の洗浄などを行います。セシウムは土の表面3㎝~5㎝にほとんどが存在していますので、表土の張替はかなりの効果があります。「除染特別地域」ではそれをすべて行うのですが、比較的線量の低い「汚染状況重点調査地域」では、放射線量によって除染を実施する場所を決めます。年間1ミリシーベルト(1時間当たり0.23μシーベルト)の放射線量を目標としていますので、それ以下の場所には手を付けないことになっています。南相馬市でも、放射線量の高い阿武隈高地に近い地域は全面的に除染を行い、放射線量の低い海側に近づくと放射線量の測定結果に基づいて除染箇所を決めていきました。
なお、除去物については、南相馬市は仮置き場へ搬入しました。仮置き場がない福島市などでは、除去物を宅地内に埋めておくという方法が取られました。その他、各自治体の状況に応じて除染の仕様が決められました。
帰還困難区域以外の国や市町村の除染は、平成29年3月に一通り終了しました。現在は帰還困難区域の双葉町や大熊町の除染が始まっているところです。高線量地域で除染によってどれだけ放射線量の低減ができるか注目したいと思います。
※参考資料
除染関係ガイドライン(環境省)