南相馬市の受難⑩~除染に至る経緯~

◇福島県の復興とは 
 東日本大震災における復興とは地震や津波で破壊された環境を回復し、人々の生活を元に戻すことであり、それは土木建築事業によって日に日に目に見える形で目の前に現れてきます。しかし、福島県の場合、その前に広範囲に飛散した放射性物質を除去するという「掃除」をしなければならず、その分、復興が遅れることになります。「掃除」は、土木建築事業とは違い、あまり目に見える形で目の前に現れてくることはなく、現れるのは汚染土壌が積み上げられていく「仮置き場」の数々でした。同じ被災地でも宮城県や岩手県とはこの点で様子が違ってきます。

◇福島第一原発事故による放射能汚染に対応する法律の制定
 これまで日本には、福島第一原発事故のような広範囲にわたる放射能汚染を想定した法律はありませんでした。事故後に環境関連の法律の放射性物質に関する取扱いについては大幅に変更されることになりますが、「除染」については新たに法律を作って、その仕組みをつくることが緊急の課題となりました。これを受けて、
「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質汚染対処特措法」と略します。)
が平成23年8月30日に成立します。これが、安全かつ迅速な除染と、除染により発生する放射性廃棄物等を安全に処理、貯蔵、処分するための基本的な法律となりました。
12月に、環境省が除染や廃棄物の取り扱いについてわかりやすく説明するために「除染関係ガイドライン」と「廃棄物関係ガイドライン」を策定し、翌平成24年1月1日に全面施行となりました。

◇「責務」について
 放射性物質汚染対処特措法には、3条から6条に「責務」についての条文があります。要約すると次の通りです。

1、国
 原子力政策を推進してきたことに伴う社会的責任にかんがみ、必要な措置を実施。
2、地方公共団体 
 国の施策への協力を通じて、地域の自然的社会的条件に応じ、適切な役目を果たす。
3、関係原子力事業者
 誠意をもって必要な措置を講ずるとともに、国又は地方公共団体の施策に協力。
4、国民 
 国又は地方公共団体が実施する施策に協力。

 「除染」なんて、二度と行うようなことがあってはなりません。国や事業者はこれ以上こんな責務を負うことがないようにする必要があるし、国民にも二度とこんな責務を負わすことがないようにしてほしいものです。

◇除染対象となる地域
 「放射性物質汚染対処特措法」では、除染は国と市町村が行うこととなっていて、国が行う地域は「除染特別地域」、市町村が行う地域は「汚染状況重点調査地域」に分類され、それぞれ除染計画が策定されます。国が行う「除染特別地域」は放射線量が高く、1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超える恐れがあるとされた「計画的避難区域」と福島第一原発から20km圏内の「警戒区域」が対象となります。また、市町村が行う「汚染状況重点調査地域」は、年間追加被ばく線量が1ミリシーベルト以上の地域を対象とし、汚染状況の調査測定の結果などに基づいて除染実施計画を定め、除染を実施する区域を決めて除染を実施します。

◇除染開始
 南相馬市の除染範囲は、国が行う「除染特別地域」と市が行う「汚染状況重点調査地域」とに分かれ、市と国が別々に行うことになりました。市が行う除染は、平成24年9月に開始し、国(環境省)が行う除染は平成25年8月に開始しました。
〇国が行う除染地域は「旧警戒区域」、「旧計画的避難区域」で、市が行う除染区域はその他の色分けされている地域です。市が行う地域は西側に阿武隈高地、東側に太平洋沿岸があり、西側の方が放射線量が高いため、除染は西側から始めることになりました。

◇除染に入った場所
 私が除染作業員として南相馬市の小高区に入ったのは平成26年4月で、その時期は下図のような区分けがされていました。従事した場所は浪江町との境界近くで、福島第一原発から10kmくらいのところでした。(赤い斜線部分)

※参考資料
放射性物質汚染対処特措法
環境省政策資料・ガイドライン
経産省ホームページ