福島県の震災関連死者数の多さについて

今年の3月11日で東日本大震災から7年目を迎えるにあたって、原子力災害被災地の状況を整理してみたいと思います。
東日本大震災は東日本沿岸の広範囲にわたって地震や津波による被害がもたらしました。福島県はそれに加えて原子力災害も被っているために、他県とは違う被災状況として震災関連死者数の多さが上げられます。

◇震災関連死とは
震災関連死とはwikipedeiaでは次のように説明がされています。

災害による直接の被害ではなく、避難途中や避難後に死亡した者の死因について、災害との因果関係が認められるものである。

この説明で十分ではあるのですが、これまではっきりとした定義はありませんでした。東日本大震災以降、復興庁が初めてその定義を次のように示しています

東日本大震災による負傷の悪化などにより死亡された方で、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、当該災害弔慰金の支給対象になった方。

つまり、「災害弔慰金の支給対象になった方」が震災関連死として認定されるということです。災害弔慰金とは、一定規模以上の自然災害によって亡くなられた方や障害を負った方に対して支給されるもの(内閣府の防災情報のページより)で、各自治体の条例に基づいて設置された災害弔慰金審査委員会によって、死亡者と災害との因果関係が確認された方に支払われます。それは、死亡原因と自然災害との因果関係が公的に認められたことを意味し、災害関連死として数えられることになります。そして、自然災害だけではなく原子力災害にも適用されたため、福島第一原発から遠くへ避難した人々も対象となり、それが震災関連死者数を増加させる要因となりました。

◇被災三県の比較
ここで、もっとも大きな震災の被害を受けた被災三県での死者数を比較します。

岩手県も宮城県も、③震災関連死者数は①死者数(直接死)の1割程度です。しかし、福島県での震災関連死者数は①死者数(直接死)を大きく超えています。福島県の震災関連死の内、原子力災害由来のものでない人数は、岩手、宮城と同様の1割程度としたら、1,614人×0.1≒161人となります。したがって、原子力災害由来と考えられる人数は2,202人ー161人=2,041人程度となり、直接死者数と行方不明者数の合計より多くなります。
次に、年齢別に見てみます。

どの県においても、高齢者の割合が高いことがわかります。「福島県における震災関連死防止のための検討報告」(H25.3.29 復興庁)によりますと、福島県では地震、津波、原子力災害による避難回数が平均7回にも及ぶということです。特に原子力災害では、避難指示の地域が次々と変更されていきますので、避難回数が多くなります。7回も避難の移動が繰り返されれば、体力の低下している高齢者には耐えられるものではないと思います。

◇福島県の被災者が抱える他県と違う事情
「福島県における震災関連死防止のための検討報告」では、原因や対応策についての医療関係者、公衆衛生関係者の意見が記載されています。原子力災害にかかわる部分について抜粋します。

《福島の状況》
今回の原発事故が人災であるか否かはさまざまな見方があると思うが、天災と人災では影響の尾の引き方、ストレスの解消の仕方が違う。天災はあきらめざるを得ないが、人災の方は、どこかに持って行きようがあるために、すっきりしない状態が続く。
浜通りの人々は避難生活が長引いており、展望が見えない。このことが、高齢者の元気が出ないもとになっている。
《留意すべき事項》
岩手県や宮城県と比べて福島県で極端に違うのは、慣れない避難生活の長期化を基盤として、「生きているうちに今の避難先から出られないかもしれない」という不安や、生きがいも、希望も、生きる意欲も持てないというメンタル面の影響が大変大きいと考えられる点である。 心のケアの充実は抜本策ではない。除染や生活基盤の整備などを見える形で推進し、復興・再生を進めるに当たり、夢や希望といったメッセージを発信するという視点を持つことが重要である。そういう視点を持たないと、医療体制や仮設住宅を良くするだけでは、心は軽くならない。

事故後に、「原発事故で死んだ人はいない。」と論評していた有名人がいましたが、それは急性放射線障害による死者のみを取りあげているのであって、原子力災害は自然災害とは違って長く後を引く特徴があるという視点が欠落しています。「原発さえなければ」と書き残して自ら命を絶った相馬市の酪農家をはじめ、希望を失って命を投げ出した人は何人もいらっしゃいます。震災関連死者数だけではなく、潜在的に寿命を縮めている人たちはそれ以上いると思われます。原子力災害は、被災者に希望を失わせるという、自然災害とは違う問題を引き起こし、それが「福島県における震災関連死の増加」という結果に現れているといえます。