福島第一原発の事故が起き、原子力緊急事態宣言が発令されたことを受けて、周辺の住民は政府の避難指示にしたがうことになりました。福島第一原発事故の状況とそれに関連して避難指示の範囲が広がっていく過程を振り返ります。
図は、福島県庁のホームページより引用させていただきます。
また、避難区域の変遷についても福島県のホームページを参考にさせていただきます。
◇平成23年3月11日14時46分東日本大震災発生
福島第一原発(以後1F)で稼働中だった1~3号機はすべて緊急停止しました。冷却に必要な電源が入ってこなくなったため、非常用ディーゼル発電を起動させて、燃料棒を水によって冷却することには成功しています。地震が発生する直前まで高温を放っていた燃料棒ですから、冷却しなければ燃料自体が溶けてしまい、原子炉の底に落ちてしまって(メルトダウン)、さらには原子炉の外側に出てしまい(メルトスルー)、その熱で原子炉を覆う格納容器の圧力が上昇し、格納容器が破損するという事態になりかねないので、原子炉を緊急停止したあとには必ず冷却という操作が必要となります。このためには冷却装置を作動させる電源が必要でした。この時点では非常用ディーゼル発電機で対応できていました。それが、津波によって水没してしまいます。
◇15時36分頃津波到達。
非常用ディーゼル発電が水没し、全交流電源喪失、冷却不能となり、施設内の計器の数値も消滅。原子力発電内のあらゆる情報が途絶えてしまいました。
◇15時42分 福島第一原発の吉田所長、「第10条通報」(施設敷地緊急事態)を行う。
「10条通報」とは、原子力災害特別措置法の10条に定められたもので、原子力施設などの敷地内において、一定以上の放射線量を確認したり、原子炉冷却材の漏えいなど、定められた項目で異常事態が発生した場合に、政府、県、立地自治体の長へ連絡することが義務付けられています。
この時点では、発電所の敷地内では異常な放射線量は確認されておらず、「全交流電源喪失」が10条通報の理由となっています。この10条通報は、過酷事故に至る前触れでもありました。
〇吉田所長が送った第10条通報のFAX(原子力規制委員会ホームページより)
◇16時36分 吉田所長、「第15条通報」(全面緊急事態)を行う。
「15条通報」とは、10条通報の状況よりさらに悪化した事態となります。非常停止時すべての原子炉停止機能喪失、敷地境界の空間放射線量5μs/h(1時間当たりのマイクロシーベルト)等、定められた項目があり、この時点では、「非常用炉心冷却装置注水不能」が15条通報の理由で、異常な放射線量が認められたわけではありませんでした。いずれにしても、15条通報は原子力緊急事態宣言に直結することになります。
◇19時03分 政府、原子力緊急事態宣言を発令
原子力緊急事態宣言が発令され、原子力災害対策本部が設置(本部長=総理大臣)されました。一般の災害ならば市町村長が避難勧告や指示を行いますが、その権限がすべて政府に移ります。これから出される避難指示は、政府から各自治体の長への指示となります。なお、原子力緊急事態宣言は2018年現在においても解除されていません。
◇20時50分 福島県、1Fから半径2km圏内に避難指示
ここで、政府からではなく、福島県が福島第一原発から半径2km圏内に避難指示を出しています。それは政府から避難指示が出されないことに危機感を募らせた県が、独自の判断で出した指示でした。(国会事故調査委員会報告書より)
◇21時23分 政府、念のため1Fから半径3km圏内に避難指示、半径10km圏内に屋内退避指示
この時点では、政府はまだ事態の深刻さを認識しておらず、「念のため」という表現をしています。これから原子炉格納容器の圧力が上昇し、それを低下させるためのベント(排気)が困難な状況に陥る事態へと発展し、さらには原子炉建屋が水素爆発するという過酷事故に至り、それにしたがって、避難指示範囲も拡大していくことになります。
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