新緑(松籟集Ⅱ 七月号)

広々と水張田つづくバス路線窓辺に見つむ光をあびて

山口に入りしか眞白き塔見せてザビエル教会木の間に立ちぬ

山道を過ぎれば眼下にひろがれる津和野の町が美しく光る

さらさらと小さき瀧なす山清水乙女峠の坂道に沿い

新緑の濃ささまざまに陽に照りて乙女峠の山頂埋める

丈高き竹のひと群風吹けば弧を描きつつ凪にしたがう

登り末し人ら集いて始まりぬ峠まつりの野外礼拝

踏み絵をも踏み得ず逝きし乙女らの殉教されし地峠に立ちぬ

ほほ笑める子に癒されぬつねづねに痛み持つ子を介護す我は

藤本悦子