国会の意味不明なやりとり ~参院選前に考えたいこと~

〇上関原発建設における埋め立て免許の延長申請
今月は上関原発建設のための埋め立て工事に必要な「公有水面埋め立て免許」の期限が切れるため、中国電力がその延長を山口県に申請し、県がその許可を出すかどうか注目されています。これに関して、国会でやりとりがされていますが、その内容がまったく意味不明で理解できません。その内容を紹介する前に、上関原発計画が、現在どの時点で止まっているのかを簡単に振り返ってみます。

上関原発建設予定地

上関原発建設予定地

〇原子炉設置許可を待っている状態
原子力発電所の建設には、その工程に従って必要な手続きがあります。下図の灰色の部分がこれまで達成してきた部分で、原発を推進する人たちにとっては、一つ一つの工程を達成させたものであり、反対する人々にとっては一つ一つ追い込まれているということを意味します。
現段階は、原子炉の設置許可申請を政府へ提出済みであり、その許可を待っているという状況です。福島第一原発事故後、経産省による審査は止まっている状態です。(下図は中国電力ホームページ、電気事業連合会ホームページより加工)

これまでは「地点選定」という段階で、1984年から2009年に至るまで25年を費やしています。本体工事は着工していませんが、今はその一歩手前の準備段階で、原子炉設置許可が下り次第、いつでも本体工事を始めることができるように、準備工事としてアクセス道路の建設やトンネル工事が着々と進められ、2011年の福島第一原発事故のあとでもそれは継続されています。ただし、上関原発の場合は、その原子炉本体の建設に着手する前に、田ノ浦湾周辺の埋め立て工事が必要となります。そのため、中国電力は2008年6月に山口県に対し、「公有水面埋立免許願書」を提出し、同年10月22日に免許の交付を受けています。
〇田ノ浦埋め立て工事における攻防
この免許は1年以内に工事に着工しなければならず、着工から3年以内に工事を完了させなければならないとされています。なんとか着工にこぎつけたい中国電力は2009年9月に工事海域を示す灯浮標(ブイ)を設置しようとしますが、祝島島民とその支援者であるシーカヤックの若者たちの阻止行動によって設置できないでいました。しかし、10月7日、灯浮標2基を祝島から見えない位置に投下し、即日、それを埋め立て工事着手として県に届け出ています。前年の埋め立て免許交付から1年以内の着工になんとかこぎつけたわけです。それからは、3年以内の工事の完了を目指して埋め立て工事を急ぐ電力会社とそれを阻止しようとする祝島島民やその支援者との攻防が田の浦の現場で展開されることになりました。2011年2月、あと1年8か月以内に埋め立て工事を完了させなければならない中電は総攻撃を開始します。2月21日未明、中電は田ノ浦へ600人もの社員、作業員、警備員を動員して埋め立て工事開始を強行し、祝島の人たちやその支援者たちも必死の抵抗を行いました。海では砂利を積んだ台船十数台が埋め立て作業を開始しようとしますが、祝島の漁船やシーカヤックが阻止します。連日の抵抗で、中電側は引き揚げ始め、3月1日にはすべての船は去っていきました。祝島の人々が疲弊の極みに達しようとしていた矢先の2011年3月11日、東日本大震災と福島第一原発事故が起き、田ノ浦の工事は中断されて現在に至っています。
福島第一原発事故を受けて、埋め立て免許については、当時の二井知事は免許の失効も視野に入れると表明し、「公有水面埋め立て許可が原子炉設置許可に先行する現行法制度」に疑問を呈しました。しかし、その期限が切れる直前の2012年10月、中国電力から免許の3年間延長申請が提出された際、二井知事の後を受けた山本知事は判断を先送りしてしまいました。知事就任の際には二井知事の方針を受け継ぎ、埋め立て免許の延長を認めないとしていたにもかかわらず、衆院選で自民党が圧勝したことによって態度を変えた知事に対し、祝島の人たちが激怒したことは言うまでもありません。


2016年8月4日、山本知事の後を受けた村岡知事は、本体着工のめどがつかない段階での埋め立てはしないよう電力会社に要請しつつ、免許の延長を認めて現在に至っています。
この免許の期限が切れる2019年7月を前に、先月の6月10日、中電は埋め立て免許延長の申請を県に提出しました。知事が更なる延長を認めるのか注目されますが、国が重要電源開発地点の指定を解除しない限り、県が免許を失効させることはないものと思われます。(県がそんなことにかかわらず、免許の失効を決めてもよいはずですが、村岡知事にそんな度量があるとは思えません。)

〇世耕経済産業大臣の意味不明な発言
先月、この埋め立て免許の延長申請に関して、国会で意味不明なやりとりが行われています。
2019年6月19日衆議院経済産業委員会での上関原発計画と埋め立て免許について、宮川伸議員(立憲民主党)の質問とその答弁です。

*上関の原発計画と埋立免許について(文字起こし)**

◇宮川議員「上関原発に関してお伺いします。これ、山口県の原発でありますが、大臣は繰り返し、新増設、リプレース(建て替え)はしないという答弁をされていましたが、いまも、これは、新増設、リプレースはしないということで、よろしいでしょうか」
◆世耕大臣「これは、現時点において原発の新増設、リプレースは想定しておりません」
◇宮川「この上関原発(山口県)、まだ何もない更地の状況でありますが、もし、建設してつくった場合は、これ、新設の原発になるんでしょうか」
◆資源エネルギー庁・村瀬佳史電力・ガス事業部長 「上関原子力発電所につきましては、まだ設置許可がおりていないため、仮につくる場合は、新設にあたる、と」
◇宮川「そうすると大臣、上関原発は、経産省、大臣としては、建設は想定していない、ということでよろしいですか」
◆世耕「現時点において原発の新増設、リプレースは想定していない。そのことに尽きると」
◇宮川「2枚目に、裏に新聞記事を載せました。中国電力が6月10日に、上関原発の建設のために埋め立て免許の期間延長の申請書を山口県に出した、とあります。その申請書のなかでは、海上ボーリング調査6ヶ月、そして埋め立て工期に3年、ということが書かれているということであります。大臣、いま、経産省としてはつくらないと、想定していないという中で、こういう工事が行われる、そして山口県がこれをいいですよという、と。まだ、これ、いいですよという結果は出ていませんが、言うだろうといわれています。こんなことがあって、いいのでしょうか。」
◆世耕「あくまでもこれは、経産省のエネルギー政策全体のなかで、原発については現時点で新増設、リプレースは想定していない、ということであります。当然、各事業者とか自治体の判断でなされることはあるんだろうとは思いますが、少なくとも経産省としては、現時点での原発の新増設、リプレースは想定しておりません」
◇宮川「まったく理解できないんですが、新設・増設・リプレースはしないと、これ、安倍総理も言っていると思います。にもかかわらず、埋め立て工事していいんですか、大臣、もう一度お願いします」
◆世耕「ですから、現時点において原発の新増設、リプレースは想定していません。埋め立て工事の許可というのは、私の権限ではありません。」
◇宮川「大臣の権限が、あります。山口県がこれを承認するという理由のひとつに、重要電源開発地点のひとつに、ここが指定されているから、国がこれ指定しているから、という理由で、山口県はこれの認可をおろそうと、延長を認めようとしているわけです。そして次のページ・・・法律が書かれている・・・『重要電源開発地点の指定に関する規定』というのを今日お配りしました。そのなかに、なぜ8年も経ってこれが解除されていないか、ということでありますが、『第7条 経産大臣は指定を行った重要電源開発地点が第4条第5項にかかげる要件のいずれか適合しなくなった時、この指定を解除することができるものとする』と。大臣が、解除できるわけです。では、どういう要件かというと、12項目ありますが全部やれないので「四」というところだけやります。『電源開発の計画の具体化が確実な電源であること』と書いてあるわけです。これ、開発が確実でなければ、大臣が解除できるんです。いま、新設はやらない、と言っている。なぜこれが、『計画の具体化が確実』なんですか、大臣」
◆世耕「上関原発については事業者が有する計画や地元状況に変化がなく、また、事業者から重要電源開発地点の解除の申し出がない、というなかでありますから、その指定を国がみずから解除する事情がないと考えています。」
◇宮川「大臣、これ、規定、法律、これ本当に立憲主義なんですか。ここに私、法律を出しましたよ。出しまして、大臣が変えられる、と書いてある訳です、大臣の権限で。この要件として、『電源開発の計画の具体化が確実な電源であること』と書いてある訳です。なぜ、新設をしないと言っているのに・・・ご自身で言っている訳ですよ『新設しません』と・・・、『計画の具体化が確実』なんですか? なんで『計画の具体化が確実』なのか教えてください」
◆世耕「繰り返しになりますが、政府としては現時点において原発の新増設、リプレースは想定していません。そのうえで申し上げますと、上関原子力発電所については、事業者が、計画を遂行する意向でありまして、法令上の必要な手続きや一定の地元理解が進んでいるという状況でありますから、『計画の具体化が確実な電源』であると考えています。ただし、その原発を、新設を認めるかどうかは規制委員会が判断することですし、政府としては現時点において原発の新増設、リプレースは想定しておりません。」
◇宮川「おそらく多くの国民は、その説明まったく理解が出来ないとおもいます。ちょっと切り口を変えます。電源立地交付金というのが出てると思いますが、原発がとまりました2011年から、上関町に、この電源立地交付金が毎年いくら出ているかお答えください」
◆村瀬電力・ガス事業部長「上関地点においては2011年度以降、毎年度約8000万円の電源立地地域対策交付金が交付されてきているところです。このほか原子力発電施設等立地地域特別交付金として、2011年度から2012年度にかけて、総額約22億円が交付された実績があるところです」
◇宮川「大臣が『新設しない』と言っているのに、なぜか国の方から自動的にお金が、30億円くらい、お金が流れているわけです。それも毎年毎年、8000万円とおっしゃっていましたが、1億円くらいのお金が毎年、出ていってるわけですね。なんで、原発つくらないといっているのに、お金が流れる。いいんですか、これ」
◆世耕「電源立地地域対策交付金についても、重要電源地域指定と同様に、事業者である中国電力が持っている計画や、地元自治体のおかれた状況に変化がないわけです。また、事業者から重要電源開発地点の指定の解除の申し出がないなかで、交付を終了する事情はないと考えています。そのなかで敢えて申し上げれば、震災直後の2011年度、あるいは民主党政権下で、革新的エネルギー環境戦略なるものが策定され、原発ゼロが打ち出された2012年度においても、上関地点に置ける原発交付金は継続していた。なぜそのとき止めなかったのか、というのは逆に私もお伺いしたいくらいですけども、ですので我々は、2013年度以降も、その扱いに変化がないという状況が続いている、ということだということは申し添えておきたい」
◇宮川「少し過去のことも聞きましたが、しかし気がついたときにシッカリやるというのが大事だと思います。今ちょうどこれから、埋め立ての認可を延長するかどうかの議論があるわけですから。もう一度お伺いします。なぜ、新設しないと言っているのに、お金がこのまま・・・。これ延長されたら、お金が出続けるわけです。いま、気がついている訳です。もう一度お伺いします。もしかして、本当は、新設するというような密約があるわけですか。あるいは、安倍総理の山口県だからお金が落ちるようになっているんですか。そうじゃなかったら、理由がなくないですか? 新設しないと言っているのに、なぜ重要電源開発地点が解除されなくて、毎年毎年お金が落ちるんですか。もっと国民に分かりやすくお答えいただけますか」
◆世耕「何度も同じお答えになりますが、原発については現時点において原発の新増設、リプレースというのは、政府としては想定していません。今ご指摘の交付金については、重要電源開発地点の指定と同様に、事業者である中国電力が持っている計画や、地元自治体のおかれた状況に変化がありません。また、事業者から重要電源開発地点の解除の申し出がないなかで、その交付を打ち切る理由はないと考えていますし、民主党政権下で原発ゼロが打ち出されたときも、この交付金は支払われ続けていたわけであります。」
◇宮川「改めて、その説明、国民は理解しないと思います。怒ると思いますよ国民は。そして、気がついたときにシッカリ直していく。いま、気がついている訳ですから、直していくということを申し上げたい」

**以上**

〇上関原発を新設する意思があるということ
「新設しないと言っているのに、なぜ重要電源開発地点が解除されなくて、毎年毎年お金が落ちるんですか。」→「現時点では新設しないが、重要電源開発地点は解除するつもりはなく、交付金も支払い続ける。」
→つまり、いつかは「新設」するつもりだということです。大事なポイントなので宮川議員には、「現時点においては、ということは将来的には新設もありうるということなのか?」と質問してほしかったと思います。
「電源立地地域対策交付金」は電気料金に上乗せされている税金を、経産省の特別会計に組み込み、そこから支出されるものです。電気料金の明細書には記載がないため一般の電気需要者はいくら払っているのかわかりません。上関町は、健康支援事業として保健師や診療所維持のための看護師の人件費や町営バスの運行委託などに充てられ、住民のためには必要不可欠なものとなっています。町が立ち行かないのであれば広域合併という方法もあったはずですが、この利権を総取りするために、上関町は合併に反対し、今に至っています。

平成29年度、上関町が電源立地地域交付金を活用した事業は次の通りです。(経産省資源エネルギー庁ホームページより抜粋)
〇町営バス運行業務委託事業(町営バス2路線の運行業務委託) 7,000,000円
〇上関町健康支援事業(上関町内の保健師3名分の12か月分人件費) 14,600,000円
〇上関町へき地診療所維持運営事業  9,200,000円
(上関町内のへき地診療所の運営経費=看護師3名分の12か月分人件費)
〇上関町社会教育施設維持運営事業 4,500,000円
(上関町民体育館及び上関町民グラウンドの運営経費=管理人2名分の12か月分人件費、12か月分光熱水費、12か月分維持経費等)
〇室津港湾公有地公園整備工事 24,000,000円
(公園整備のための掘削・盛土による土地の平坦化、照明設備の配管埋設等の工事費)
〇室津消防機庫建設工事 5,400,000円
(消防車、ポンプ等を保管・管理する床面積約27㎡平屋建ての消防機庫の建設費)
〇町営バス整備事業(町営バス=10人乗り、14人乗り各1台の購入費) 6,300,000円
〇イベント事業(毎年7月に開催する上関水軍祭りの実施委託) 6,920,000円

合計金額=77,920,000円

電源立地地域交付金は、以前は使用目的が限定されていて、道路や箱物建設が主でした。しかし、今では人件費にも充てられるほどずいぶんと使い勝手がよくなっています。こうした交付金は上関町にとって魅力的です。しかし、過疎化に悩む自治体はたくさんあって、それぞれ知恵を出しながら町づくりを考えています。潤沢な交付金に慣れてしまうと、地味な街づくりの取り組みには目もくれなくなってしまうでしょう。
しかし、福島第一原発事故以降、利害関係者は地元自治体だけのものではないということがはっきりしました。福島第一原発から60~70㎞圏の福島市や郡山市では高い空間線量があり、広範囲に除染が行われました。100㎞離れた会津地方でも除染が必要な場所がありました。上関原発から100㎞圏といえばほぼ山口県全域となります。地下水の非常に豊富な田ノ浦で汚染水が漏れたら閉じた海域の瀬戸内海では漁ができなくなります。上関原発は、県民全体で考えるべきものです。県は、田ノ浦湾の埋め立て免許の延長を認めてはならないと思います。

〇参議院選挙前に考えてみたいこと
今月21日は参議院選挙の投票日です。選挙前なので、世耕大臣の答弁は煙に巻くような発言にとどまりましたが、この選挙で自民党が圧勝し、次の衆議院選挙でも自民党が圧勝することになると、政府は原子炉設置許可を出し、はっきりとゴーサインを出すことでしょう。国民も県民も、現在の社会状況についてよく考える必要があるのではないかと思います。
世耕大臣の動画の発言は、国民の税金である電源開発交付金の使途についてこのように不可解な説明で通ると思っているのですから、完全に国民を馬鹿にしているといえます。もっとも、これは野党を馬鹿にしているものだと思います。野党にはまったく力がないことを見透かし、何も怖くないということです。また、これまで、税金の値上げを前に選挙を行うことはなかったと思います。堂々と消費税10%を掲げて、選挙に臨む政権与党は、国民を恐れてないということです。消費税は、低所得者層に重くのしかかる税です。それを躊躇なく実施しようとしています。
これを考えるのは財務省の官僚たち、そして、それを立法化するのが政治家です。どちらも超頭脳明晰なエリートです。しかし、日本はこの超エリートたちが考えた政策によって多くの国民の命を失い亡国に至った戦争の経験があります。世耕大臣の答弁を聞いていると、やはり国を亡ぼすのはエリートたちなのだろうと思います。どこを向いて何を考えて政治を行っているのでしょうか。
今回の参議院選挙の投票は重要な意味を持つと思います。皆さんと一緒に考えることができたらと思います。

上関原発建設予定地から100㎞圏